誰にも渡したくないと思ったからこそ一緒に住もうと決めた。
今更他の男が寄ってきたからと言って、易々と手を離せるもんか。


明香への気持ちはそんな簡単なもんじゃない。
俺は自分の一生をあいつと添い遂げるつもりで今の仕事を始めたんだ。


こんな馬車馬みたいに働いてきたのもそれだからだ。
この時間の経過の全てを放り出してしまえるものか。


親に歯向かって「私を追い出して!」と頼んだ明香のように、俺も勇気を出して彼女に願ってみるんだ。



もう一度、一緒に生きて欲しいんだ…と。

誰よりも明香が必要だ…と話してみようと思う。



部屋の鍵をかける時、空からは真綿のような雪がチラついていた。
今夜こそは早く帰るんだ…と心に留め、足早に駅へと向かった……。