喉を通り難い焼きそばを無理矢理通しつつ、彼女と暮らしたこの一年余りの日々を思い返していた。


初日の夜に気恥かしいけれど嬉しかったことも、翌日に彼女を初めて抱いたことも思い出した。
明香が失敗した料理を食べながら慰めたこと、上手く出来て褒めたことも思い出した。


俺の前で明香はいつも笑っていた。
腕の中で眠っている姿に何度惚れ直したことだろうか。


それなのに俺はいつの間にか明香のことを見失っていた。
仕事のことを優先し過ぎて、彼女のことを顧みなくなっていた。

明香はそんな俺のことを考えて、ずっとあれこれ心配してくれていたのに、それすらも断り続けてきた。


明香が俺を見限る筈がないと自負していた。
自分達の過ごしてきた時間は、絶対に無駄じゃない…と信じてきた。


なのに、今はどうだ。
明香とは毎晩のように食い違い、互いにその溝を埋めようともしないでいる。

気持ちには何の変化もないのに、他の男に明香が惑わされていることも知らなかった。


このままそれを見ていてもいいのか。
最後くらい本当に意地を張らなくていいのか。

取り零してもいいのか。
あいつに譲ってもいい程、明香への気持ちはいい加減なものだったのか……。




「……んな訳ねぇだろ」


明香を自分だけの女にしたくて止めたんだ。
あの腕を握った時から俺の唯一大事で必要な女は明香だけだ。