教室から紹介された事務処理の仕事に就けるようになった厚哉の言葉は呑気だった。


「頑張っても無理よ。私1人じゃヤル気にならない」


親からは試験に落ちたらお見合い結婚でもしなさいと言われていた。
資格も職も持たない私を、何年も面倒を見れないと思ったんだろう。


「この試験に落ちたらお見合いすることになってるの。21の若さで結婚するのも嫌だったから、私になりには頑張ってたつもりだったんだけど…」


実家は自営の印刷会社をしている。
家内工業みたいなものだから、私のお見合い相手は企業繋がりの人ってことになる。


「お見合い!?」


大袈裟に驚く厚哉に目を向け、「うん…」と小さく頷いた。


「お父さんの会社の系列の人と。年齢は忘れちゃったけどね」


確か10歳くらい上だったような気がする。
写真を見せられて、何でこんな人と…と思った記憶がある。


「私を遊ばせておける余裕なんてないのよ、うち」


吹けば飛ぶ様な小さな印刷会社。
大手企業から回される注文が無ければやっていけないくらいの規模だ。


「そんな…それじゃあ身売りと同じじゃん!」


ハッキリ言う厚哉の言葉に目が潤む。


「そうだけど、仕方ないのよ」


試験に合格するか結婚するか、私にはその二つしか選択肢がなかった。


「そんな好きでもない奴と結婚して上手くいくかよ!」