微妙に関係が怪しくなった。
慣れというものがどれだけ怖いかを俺も明香も知らなかったんだろうと思う。


その日も疲れて帰れば軽いイザコザみたいな感じになってしまい、取り繕うこともせずに風呂に入ってしまった。

風呂から出ると明香が誰かと電話で話していて、諦めた様な声を発した。


「……いいですよ。2週間だけということなら」


後ろから来た俺の存在に気付き、ギョッと目を見張る。
風呂上がりは暑くて直ぐに服を着ないもんだから、いつもと同じ様に声をかけられた。


「厚哉ってば、また裸で…!」


スマホの奥から相手の声がしたらしく、慌てて電話を切った際ーー


「店長」という言葉にピクンと眉が跳ね上がった。
話していた相手があのイケメンだと知ると複雑だった。


「何、店長って…」


辛うじて表情にも出さず聞けた。明香は困ったように一瞬口を噤んで話した。


早朝パートをしている男がバイクで事故り、2週間ほど仕事に来れなくなったから代わりに出て欲しいと頼まれた…と言う。

自分もいつ何が起こって休むか分からない…と言う彼女に「引き受けるな」とは言えなかった。


本当は自分がちゃんと正社員として働けてたならさせなくてもいい仕事だ。
不甲斐ないばかりに、彼女がやらなくてもいい仕事をしている。


申し訳ない気持ちもありながら言葉少なく「ふぅん」と言った。
それが明香には不機嫌な様にも聞こえたんだろう。