短絡的な考えで慣れない弁当屋なんかで働かせてしまったこともあり、「仕事を変えればいい」と言われても、「そんな心配をするのは親だけでいい」と意地を張った。


明香が毎晩起きて待ってるのを見るのが辛くて、「待たなくてもいい」と言った。
中途半端な時間に帰れば寝てないから、毎晩のように遅くまでオフィスに残った。


疲れて帰ると泥の様な眠気に襲われる。
頭もクラクラで、明香のことを抱いてやることもできない日々ばかりが続いた。


意地を張るな…と諭す自分と、今だけは意地を張れ…という自分が心の中にいた。
心配する明香の目が見れなくて、毎晩心の中で謝り通した。


明香を幸せにするんだと焦っていたんだと思う。
その為に、今は意地を張り続ける時だと勘違いしていた。


何も考えもしなかった。
遅くまで起きてソフト開発を進めていたのも、明香との未来を築いていく為だった。


笑わなくなった明香のことも見えてなかった。
それ以上に明香の周囲の変化にも気づいてない日々を過ごしていた。


あれ程嫌いだと言っていた店長のことも話さなくなった。
「行ってくるね」と眠気の隙間から囁かれる声に、寝ボけながら「行ってらっしゃい」と手を振るしかできなくなっていた。


見えない溝があったんだろうと思う。
それが見えてたのは、きっと明香だけだった。


俺には何もかも見えてなかった。
明香のことも、あの男のことも。