洗面所から戻り、リビングの入り口から
キッチンで朝飯の支度をしている七緒の後ろ姿を見つめる


子供の頃から仕事で忙しい母親達の代わりに飯の支度から家事全般は七緒がしてくれていた。
正直、お袋の味なんてものは覚えちゃいない。七緒の味で育ったと言ったって、過言じゃない程だ。


七緒が居たから、俺達は好きなことに打ち込めた。
七緒が居てくれたから…


子供の頃からいつも笑顔で明るい性格の七緒。善し悪しもはっきりしていて、竹を割ったような真っ直ぐさで、誰に対しても分け隔てない。
そんな七緒が唯一、弱さを見せられるのは幼馴染みの俺達だけだった。
それが凄く、特別な気がして嬉しかった。


一番近くに、そんな魅力的な女の子がいたら、そんなの意識するに決まってる。
好きになった瞬間なんて分からない。
気が付いた時には、他の誰も目に入らないくらい、七緒は俺の特別で…一番大切な存在になっていたんだ。


「ななちゃん、もうちょっと優しく起こしてくれてもイイんじゃない?」


実際は起きてたのだからそう言うのは可笑しな話なのだが、七緒に俺を意識してほしくて、ちゃらけた口調でキスをせがんでみる。
案の定軽くスルーされ、更にデコピンの天誅を食らわされた。


おちゃらけモードじゃ、いつもの俺だから通用しない…か。


俺の好きなオムレツにかぶり付きながら、七緒にお礼を言い、心の中ではそんなことを思っていた。