『検査してみないと、なんとも。……泉さんの熱心なファンがね、病院に駆けつけて、何かわかったら連絡くれることになってるから。心配だろうけど、待ってて。……ところで、今、どこ?』

「……図書館の前。……聡くんは?シンガポールから帰国したの?」

『飛行機から降りたら、ちょうど泉さんの競走の青板(残り3周)やったよ。すぐ『はるか』に飛び乗って、今……天王寺過ぎたかな。』

「早っ!……荷物、ないの?」

ターンテーブルでスーツケースを待っていたら、こんなに迅速には動けないだろう。

『あー、お土産だけ手荷物。他は送ったから。……あけりさんにも、今夜、届けに行く予定だったんだけど……大丈夫?そこから動ける?……タクシー配車頼もうか?』

あけりはちょっと笑ってしまった。

「大丈夫。すぐ前を、何台も通ってるから。すぐ乗れる。……けど……家じゃ……」


聡は、あけりの気持ちを察して、ため息をついた。

……そっか。

たとえ電話でも、泉さんの話題を家でするわけにはいかない……か。

お母さんも、たぶん今のお継父さんも……、泉さんに対しては、複雑なモノがあるのだろう。



聡はしばし考えてから提案した。

『じゃあさ、うちで連絡待ってたらどうかな?……あけりさんの事情はもちろん言ってないけど、父もにほさんも、泉さんの容態心配してるしさ。一緒に連絡を待ってたら?』

「……聡くん家(ち)?……いいの?」

『もちろん。大歓迎。僕、たぶんあと30分ほどで京都駅に着くから……先にうち、行っとく?』

さすがにそれは、敷居が高い。

あけりはすがるように言った。

「京都駅行く!聡くん、迎えに行く!」

聡の頬が……勝手に緩んだ。

……やばい……。

うれしいじゃないか……。

『わかった。ゴールデンウィークで、ヒト多いから、気をつけて。じゃあ、あとで。』

跳ね上がったテンションをあけりに悟られないように、それだけ言って電話を切った。


心臓がバクバクしてる……。

激坂を上がる時だって、こんなにうるさくないぞ。

落ち着け……俺……落ち着け……。


切ったばかりのスマホがまた震えた。

飛び上がりそうになって驚いた聡は、慌ててスマホの液晶画面を見た。

……噂していた、泉の熱烈なファン……中沢だ。