君への轍

夕方、薫は聡を送り届けてから、あけりの家へと向かった。

既にあけりはメールで事のあらましを両親に伝えていた。

「水島くんのご両親が反対されてはらへんのやったら、うちは喜んで、お受けします。な?」

うれしそうなあけりの継父と対照的に、あいりは複雑そうな顔をしていた。

「……ええ。水島くん……本当に、お家のかたは、それでご納得されてるのかしら……。」


薫は苦笑して、うなずいた。

「はい。確かに急すぎて戸惑ってはいましたが、あけりさんのことは一目で気に入っていました。……あの……、それで、ですね……本当なら仲人は、師匠にお願いすべきなんでしょうが……その……お義母さんが気まずいでしょうから……あの……うちの父の世話になってる……実家の地元の国会議員にお願いしたいらしいんですけど……よろしいでしょうか?」


あけりの継父は、あいりとうなずき合ってから、薫に頭を下げた。

「お任せします。よろしゅうお頼(たの)申します。」

「はあ。こちらこそ。……なんか、事後報告ばっかりになって、すみません。あの、それで、挙式なんですけど……これは、まだあけりちゃんにも言ってないんですけど……」

薫はそう言って、チラリとあけりを見た。


あけりは、何も言わず、ただ黙って、うなずいて見せた。

聞かなくても、何も相談されなくても、わかる気がした。

四方八方に気を遣うことのできる、優しい薫らしい選択だと思う。

たぶんあけり自身が考えて決めたら、選択肢の候補にもならなかっただろう。

でも……。


あけりは、うっすらと涙を浮かべて、微笑んだ。





泉の決めた「次の大安」は翌週の金曜日。

あけりの学校の1学期の終業式の翌日だった。


朝から蝉が賑やかに鳴く、よく晴れた暑い朝。

薫とあけりは、縁(えにし)の深い神社の本殿で式を挙げた。


司祭を勤めたのは、あけりの遺伝子上の父親の吉永拓也。

吉永のおかげで、急な挙式なのに、時間外にねじ込んでもらうことができた。


薫とあけりが初めて2人で訪れた時に咲いていた桜は、今は葉が茂り緑の濃い陰ができている。