君への轍

店員に恐縮するあけりの姿に、親近感を覚えた。

……聡の実母は、日本、それも因習の色濃い京都では、周囲と軋轢を起こすことが多くて、聡は幼少期からあちこちに謝って回っていた。

あけりもまた、天衣無縫な泉と周囲の潤滑剤になっていたのだろう。


「……あけりさん……よかったね。しょーりさん、怖いけど、あったかい……いや、熱いヒトだね。」

聡が小声でそう囁くと、あけりは振り返って、この上なく幸せそうにうなずいた。




結婚話は、トントン拍子に進んだ。

できちゃった婚でも、こうまでスムーズに進まなかっただろう。


選挙を控えた薫の両親は、ずっと、あけりの病気よりも、まだ高校生だということに引っかかっていたが、実際にあけりに会うとコロッと態度を変えた。

見るからに、品のいい美人、しかも学校は偏差値の高いお嬢さま学校で、成績もよい。

しかも、息子の師匠の娘だったこともあると聞けば、表立って反対することはできなくなってしまった。


「では、次の大安の日に、あけりさんのお家にご挨拶にうかがって、その次の大安に結納を……」

「そんなんしとったら夏休み、終わってしまいますわ。どうしても日ぃを気にしはるなら、次の大安に入籍、挙式、引越し。……披露宴は秋でええな?」

泉はさっさとそう決めてしまった。


「あの……でも、そんな、犬や猫の子供をもらうわけじゃありませんのに、結納なしと言うわけには……。」

当たり前のように、薫の母がそう切り出した。


泉はめんどくさそうに顔をしかめた。

「ほな、明日っちゅうわけにはいかんやろうから、明後日。……は、訓練やから、その次の日。しあさって?……ちゃっちゃと結納、持ってってください。」


「……はあ。」

薫の両親は、渋々了承したようだ。


「よし。ほな、薫。京都、行って報告して来ぃ。あと、結婚式とか具体的な話も決めて来いよ。……ほな、俺は、これで。」

泉は、飄々と立ち上がり、本当に帰ってしまった。



まるで台風のような泉に、呆気にとられている両親に、薫は改めて頭を下げた。

「……急な話で、慌ただしいけど、ごめん、俺もなるべく早くにあけりちゃんと結婚したいって思ってたから……よろしくお願いします。」


あけりも慌てて手をついて頭を下げた。

「……あの、ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」


なぜか、聡も、一緒に頭を下げた。