君への轍

泉が決めたことは、絶対だった。

すぐに薫が呼び出された。


こじゃれたカフェで遅いランチを食べていると、薫が息を切らせて駆け付けてきた。


「え……あけりちゃんも、一緒だったの?」

ぽかーんとして、突っ立ってる薫に、泉が「座れ」とも言わずに、偉そうに言った。

「薫。お前、すぐ結婚して、京都に引っ越しせぃ。」

「……は?京都?……え?」

突然すぎる命令に、薫は師匠と、それからあけりの顔を見た。


あけりは苦笑して会釈したけれど、それでは何も伝わらない。


「あの……結婚って、あけりちゃんと……ですよね?京都って……あの……俺、水島の跡取りなんですけど……。」

不思議そうな薫を見る泉の目がカッ!と見開かれた。

「わかってるわ。水島薫と水島あけりになって、京都のあけりの家に住めっちゅうてんねん。アホみたいに親の言いなりなってんと、あけりの楽な生活環境整えてやれや。」


「……しょーりさん……。」

あけりの瞳がうるうる揺れていた。


薫は、ただただ驚いて、威圧する師匠と、泣きそうなあけりを見た。


どうなってんだ?

いや、まあ……確かに、選挙運動の準備で賑やかな実家にあけりを嫁がせることは、心身共に負担をかけてしまう。

通学のことを考えても、あけりは京都に居たほうがいい。

それはわかるのだが……突然過ぎて……。



戸惑う薫に舌打ちすると、泉はすっくと立ち上がった。

「行くで。」

「え?師匠……あの……」

「お前ん家(ち)や。話つけるで。」

「今からですか!?師匠が!?え!?マジで!?」

呼びつけられたのに、椅子に座ることもなく、薫はカフェから連れ出されてしまった。


「あの……食後の珈琲が、まだ……」

店員に声をかけられたが、泉はお金を放り投げるように払って店を出てしまった。


「お釣りはいらない、そうです。すみません。途中ですが、美味しかったです。残して、ごめんなさい。」

まだ半分ぐらいしか食べてないあけりは、店員にそう謝って、泉と薫の後を追った。



やっぱりまだ食べ終えてなかった聡は、慌てて口の中に最後のひとさじを入れてから、あけりを追いかけた。