……「ゑ」……のつく……名詞……。


えーと、えーと……「絵」は「ゑ」だったわ。

それから……「声」も「こゑ」だ。

「ゑびす」もオッケーよね?

あとは……あ、「故」(ゆゑ)、「所以」(ゆゑん)……あとは……。


あけりは思いつく限りの「ゑ」を用いる単語を書き連ねようとしたが、すぐに手が止まってしまった。

そして、あえなく、終了の鐘が鳴った。



「はい。後ろから集めて。……どやった?」

古典の徳丸は、今回のボーナス問題も、生徒の意表をついたことに満足そうだ。

生徒が口々に文句をこぼすと、徳丸はうんうんとうなずいてから、無情なことを言った。

「ああ、そうや。該当しない言葉を挙げてたら、その分、点を引くからな。」

教室中から悲鳴とブーイングが上がった。





バスで移動して、京都駅で聡と落ち合った。

「ね、『ゑ』のつく名詞って、すぐ思いつく?」

あけりがそう尋ねると、聡は首を傾げた。

「『槐』(ゑんじゅ)とか?」


……よりによって、また、マイナーというか……難しい言葉を挙げるなあ……。


「『永遠』(ゑいゑん)も、『ゑ』だよね。『幻想』(ぐゑんそう)とか。」

「待って。待って。なんで、そんな難しい熟語ばっかり出てくるの?」


根本的に発想が違う!


あけりの疑問に、聡はちょっと考えながら言った。

「……なんでって……まず『ゑ』と読む漢字から考えたから。……あけりさんは、かなで探した?」

「漢字……。その発想はなかったわ……。うん。あ行から、あゑ、ゑあ、いゑ、ゑい、うゑ、ゑう……って書き出してって、途中であきらめたわ。」

そう答えて、ため息をついた。

「……なるほど……漢字ね……。それなら、いっぱい思いつけたかも。……あーあ。口惜しい。……何やっても、聡くんには敵わないみたい。」


あけりのこぼした弱音に、聡はぷっと吹き出した。

「何?それ。……もしかして、昨日と一昨日の車券の話?……だって、あけりさん1点買いしかしないんやもん。僕、けっこう点数買ってたよ。いろんなパターンの展開を予想して。」

「……薫さんの優勝の可能性も……考えた?」