エルグランドは、フルフラットにはならない。

後部座席で横になってはみたものの……あけりは、悶々としていた。


違う。

こうじゃない。


「薫さん……。ココ、嫌。……そっち、行っていい?」

あけりの声があまりにもか細くて……薫は、不安になった。

「助手席?……大丈夫?」

「……大丈夫じゃない……ココ、淋しい……。」


慌てて振り向くと、横になったあけりの鼻の付け根に、涙の玉がぷるんと溜まって光っていた。


ドキッとした。

まるで中学生男子のように、薫は胸の鼓動と連動する股間の疼きに痺れた。


薫は、操られるように路肩に停車すると、一旦、車から降りた。

ぐるりと回り、スライドドアを開けて、あけりに向かって両手を差し出した。


「ありがと……。」

あけりは、いつものように片手を差し出した。


けど、薫は片足だけステップに乗り上げると、あけりの両脇に自分の腕をねじこんで、赤ちゃんのように抱き上げた。


ひやっ!

びっくりしたけど……顔が近すぎて……声も挙げられない。

うつむいて、薫の腕に身を預けた。


薫は片腕をあけりの両膝裏に入れて、お姫様抱っこで助手席に運んでくれた。


「シート倒したほうが、楽?」

そう聞かれて、あけりはコクコクとうなずいた。


ゆっくりとシートが傾いた。


「これでいい?」

そう聞かれて、あけりは少しだけ首を上げた。

「……これぐらい。」


薫は言われるがままに、シートの傾斜を調節してから、助手席のドアを閉めて、運転席に戻った。



……あけりがシートにもたれたままでも、ギリギリ、薫の横顔が眺められる角度にしてほしがったということに、改めて気づいた。


シートベルトを締めて、再び車を走らせる……と、あけりの手が薫のほうに伸びてきた。

「危ないよ。」

そう声をかけると、手は薫の左腕に掴まって停まった。


……暇なのかな?


見ると、あけりが目をキラキラさせて薫を凝視していた。

多少、気恥ずかしくなり、薫はすぐに前を向いた。

「……寝とき。」