自宅前に到着しても、あけりは身じろぎもしなかった。

どうやら、まだ心の整理がつかないらしい。


……まあ、気持ちはわかるけど……でもなあ……。


うつむくあけりの頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でてから、薫は自分のシートベルトをはずした。

「どうする?ここで待ってる?俺独りで話して来ようか?」

「は?」

思わず、あけりは薫を見上げた。


薫は、至極真面目にあけりを見つめていた。

冗談のつもりはないらしい。


「……や……。さすがに、それは……。」

紹介したこともないのに、いきなり薫が独りで訪ねても、ただの不審者でしかないだろう。


あけりは、息をついて、シートベルトをはずした。

「一緒に行く。……でも……私、感情的になってしまって……ちゃんと話せないかも……。」

薫を見上げた瞳がうるうると揺れていた。


……甘えられている……というよりは……頼られている……。

こんな時なのに……、たぶんあけりは不安で仕方ないだろうに……、薫はしみじみと喜びを噛みしめていた。

「大丈夫。俺がいるから。……あけりちゃんの代わりに話してあげるから、あけりちゃんは泣いてていいよ。」

笑顔でそう言うと、あけりの頬が赤く染まり……涙がホロホロとこぼれ落ちた。


……かわいそうに……。

突然、実の父親かもしれない男と偶然会うとか……衝撃的すぎて、消化できないよな。


薫は、あけりを抱き寄せた。

震える背中を、優しく撫でると、小さな悲鳴のような嗚咽が漏れてきた。


「大丈夫。我慢しなくていいから。いっぱい泣いていいから。大丈夫や……。」

何度も何度も薫はそう繰り返して、あけりの慟哭が落ち着くのを待った。




あけりの嗚咽が止まるのを待って、薫は車を降りた。

助手席に回ってドアを開けると、あけりの手を取った。

「おいで。」


あけりは素直にうなずいた。

完全に依存しきった瞳に、薫の胸が甘く疼いた。


……いや……胸だけじゃない。

こんな時なのに……股間が……やばい……。


薫は慌てて笑ってごまかした。

「やー、まさか、こんなに早く、ご両親に挨拶できるとは。何か、緊張してきたよ。」