一瞬、つばさは怯んだ。

「あっ、紹介するね。うちの例の彼氏」

ベージュというか、聚楽色というか淡い色調のベストとジャケットに、茶色のスラックスを合わせたその男は、中年ではないが若くはない、それでいてどこか冒しがたい雰囲気のある、今までつばさが会ったこともないような不思議なものを漂わせていた。

しかも。

ヘリンボーンの模様がある、フランネルのあまり見かけないデザインの帽子をかぶっている。

「あっ、どうも…辻といいます」

男は帽子のつばに手をやり、軽い会釈をした。

「ダァは相変わらず初対面だと態度が固いなぁ」

まりあは人見知りを少しからかい気味に、しかしどこか温かい口調で言った。

渡された名刺には、

「辻耀一郎」

とある。