気風の良い女主人と可愛らしい看板娘が営む町で評判の呑み屋は、客足が途切れることはなく、常に賑やかだ。
それでも閉店時間が近づくにつれポツポツと客が帰りだし、閉店時間には青年一人となった。
入口の看板を仕舞い、鍵をかける。

「おねぇ、あの人本当にずっといるよ?」

洗い物の手を休めることなく、ベルはジェミロに小声で話しかける。

「どうしよう、夕方怖かったよ、また何かしないかな?
おねぇ、仕事終わったら本当にあの人と話すの?」

「まあな、約束は約束だ」

「でも、おねぇ……」

不安そうなベルの前を通りすぎ、ジェミロはカウンター越しにレイの前に立った。

「おいお前、勘定を済ませろ。
話しはそれからだ」

青年は無言で、提示された金額をカウンターに置いた。