呼び鈴はないので、無造作にドアを叩いてから入る、返事を待たないで。


ドアノブに手を掛け、思いっきり引く。
そうしないとボロいので、なかなか開かないのだ。





「はい、どうぞ」
と、部屋に入るのと声が掛かるのが重なる。



自分の家に返事も待たず、入り込んでくる奴は誰だと家の主人はアースへ顔を向けて、目を細める。



そして、アースの存在を認めるとため息混じりに言う。





「まったく、返事待たんで入ってくるならノックしなけてもよかろうに」

「一応常識だよ、マンヌじいさん」
シレッとした態度で言うアースにマンヌは苦笑する。


「また来おったか、こんなところに来ても何もないだろうに…………」 

マンヌはわざとらしく呆れた風を装う。



彼は年を取った。若いときは有名な軍人だったのだが、老いのせいでそこを追い出され、今こうして街のはずれの浮浪者などが集まる汚した場所で暮らしている。




ここ最近、自分のところを訪ねてくる少年、この街にあわせてうす汚れた服を着てきているようだが、表の街の気配を隠せてはいない。


少年の立ち振舞いは何か、見惚れるような優雅さがある。何より自分の直感がそう伝えている。