「で、それは誰なんだ?」
「誰でもいいじゃないか。」僕ははぐらかした。
「それより、そのギターの腕前を是非披露してもらいたいものだな、親友。」
「その呼び方、やめろよ。別に親友になったわけじゃねえ。」
「ギャツビーは、誰に対しても『親友』と呼んだんだ。あのディズィーの夫である、トム・ブキャナンに対してもね。弟子は師に似るものだ。」
「じゃあ、お前にとってのディズィー・ブキャナンは誰なんだ?」
親友はしつこく僕に「ディズィーは誰か?」と訊いた。僕はそれに答えないつもりでいたが、好きな人のことを誰かに話したことはなかったし、それをこの世で唯一、聞いてもらうとしたら、親友しか思い付かなかった。
折れるのは比較的早かった。
「……北條すみれさんだ。」



