「実際、僕もジャズの良さはよくわからない。トルストイ、ドストエフスキー、ゲーテの思想もほんの一部しか理解できない。コーヒーの美味しさもわからない。」
正直に打ち明けた。正直に接すれば、相手も正直に接してくれると思ったのだ。
「だろうな。雰囲気だよ、結局。雰囲気なんだ。ジャズが流れる中、トルストイを読み、コーヒーを飲む自分。そんな自分に酔っているだけなんだ。ここに来る連中はみんなそうさ。チェット・ベイカーとバド・パウエルの違い、ドストエフスキーとトルストイの違い、ブルーマウンテンとブレンドの違い、その良さ。何一つ知らないんだ。ただ、雰囲気を楽しんでいるだけなんだよ。空間の雰囲気をな。」
「僕もそのうちの一人だってわけか。」
「それでいい。」彼は慰めにも、同情にも似たような口調だった。
「中学生は中学生らしくしてればいいんだ。どうせ歳をとれば、こんな経験は、うんざりするほど待ってる。」
それから僕は彼とこの喫茶店でいろいろな話をするようになった。
彼は、本当はロックバンドが好きで、陰でギターを弾いていることを打ち明けた。僕は、ギャツビーに憧れて、ギャツビーのように一人の女子を手に入れるために努力していることを打ち明けた。



