僕はコーヒーを注文した。
店内にはジャズが流れていて、親友は、その音楽が気に入らなかったのか、レコードを変えた。
今流れている曲、チェット・ベイカーの「バット・ノット・フォー・ミー」がそれだ。
彼は、それをコーヒーを飲みながら、カウンターを指で弾きながら聴いていた。
その姿がカッコよかった。僕の知っている野崎敦という男は、血の気の多いしゃがれた声の不良だったが、その微塵も感じられないほど、ここでは、それこそギャツビーのような紳士に僕の目には写った。
僕は彼に近づこう、そして、彼の裏の顔、今目にしている野崎敦みたいになりたいと思うようになり、放課後は、毎日この喫茶店に通った。
本を読んだり、勉強をしたり、チェット・ベイカーに心を通わせたりしながら、彼をずっと見ていた。
彼も僕に気付いていた。毎日毎日通い続けていたものだから、当然だ。
そんなある日、彼の方から僕に近づいてきた。



