屋上の扉が開いたところを、屋上の扉から人が入ってきたところを、私は初めて見た。



「タップ型盗聴器。コンセントに差し込むだけで使える。しかし、ここにはコンセントはない。だから、4階の資料室から延長コードで引っ張ってくるしかない。」



そして、その声の主はブレザーのポケットを探った。



「これがその盗聴器さ。よく出来ているだろう? 見てもわからないだろう? この中に仕込んであるんだ。ここでの会話は、生徒会室にある受信機でよく聴こえる。」



タップを敦くんに向けて投げた男子。それも、予期せぬ男子が立って微笑んでいる。



まるで、子供に向けられた笑顔のように、屈託の無い。しかし、私たち高校生にとってそれは、バカにしたような、見下したような笑顔で。



フィツ・ジェラルドの小説に出てくる成金の男を思わせる、雰囲気、独特な間の置き方……。



「お前か? このクラスの異常の元凶は。」



敦くんは、タップをその男子に投げ返した。



男子は右手でキャッチした。



「心外だな、親友よ。異常は、親友。キミたちじゃないか。」