3度目のFirst Kiss

一通りのマニュアルと準備物が出来た時には、1時を過ぎていた。

ホッとすると、急にお腹が空いてきた。
そういえば、朝からコーヒーしか飲んでいない。
段取りも付いたので、ランチに出掛けることにした。

ビルのエントランスを抜けて、外に出たところで、
出先から戻って来た生田君とばったりと出会った。

「生田君、お帰りなさい。」

彼は、急いで駅から歩いて来たんだろう、季節外れの汗を掻いている。

「広瀬さんは、何処へ?」

「私は、ランチに行こうかと思って。展示会の資料と準備物は、一通りできたから。後で目を通しておいてね。」

「えっ、あれ、もう出来たんですか?!ありがとうございます!本当に、ありがとうございます。」

生田君は、何度もお礼を言いながら、両手で私の手を握って、とても嬉しそうに笑った。

「そんなに、いいよ。奈緒子の資料が完璧だったから、案外、直ぐに終わったのよ。感謝するなら、奈緒子にしてあげて。それに、この手を離してくれないかな。ここ、会社の前だし。」

私は、生田君の手から自分の手を抜く。

「広瀬さん、今からランチなんですよね?僕も一緒に行っていいですか?明日からの準備をするために、急いで帰って来たんですけど、広瀬さんがやってくれたと聞いたら、安心して、お腹空いてきちゃいました。僕が奢りますから。取り敢えずのお礼です。」

「取り敢えず?」

「はい、もちろん今回のお礼は、改めて、ちゃんとしたいと思ってます。展示会が終わって落ち着いたら。それに、俺には、広瀬さんとちゃんと話したいことがあるといいましたよね。」

最近の生田君は、私と話す時、よく「僕」と「俺」が混同している。
意識的なのか、無意識なのかは、分からないけど。

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて、ランチをご馳走になろうかな。私も、お腹ペコペコなんだよね。」