3度目のFirst Kiss

「あの、生田君。山根さんの事なんだけど。」

彼は、パソコンから目を離さずに、答えた。

「聞こえてました。まだ、熱が下がってないみたいですね。すみませんが、僕は8時半には、一旦、ここを出ないといけないので、北村さんが来たら、代わりに報告しておいてもらえますか。」

生田君は、最後にやっと、こちらをチラッと見て、
ちょこっと頭を下げた。

よっぽど、忙しいんだろうな。
8時半まで、後、15分しかない。彼は、一体、何時からここにいるんだろう。昨日、社用車に乗って帰ったのも、多分、電車が動き出す前に出社するためだったのかもしれない。

目の下には、生田君には珍しく、目の下には隈が
浮かんでいる。

「了解です。じゃあ、私から北村さんへ報告しておきますね。」

私は、自分のデスクに戻ると、お財布を持って休憩室に向い、ブラックコーヒーを2本と栄養ドリンクを買った。

 うちの会社は定時が9時だから、パラパラと早めに出社する人達がエレベーターから降りてき始めた。

私は急いで営業部に戻り、生田君のデスクに向った。

「はい、これ。生田君も身体には気を付けてね。」

コーヒーと栄養ドリンクを彼のデスクに置いた。

「ありがとうございます。広瀬さんからこんなの貰えたら、もう、頑張るしかないですよね。でも、これは、反則ですよ。ますます、広瀬さんの罠に嵌ってしまいそうです。」

「私、罠なんて仕掛けてないよ。」

「相変わらずの無自覚ですか。じゃあ、僕、もう出ますね。報告、よろしくお願いします。」

「行ってらっしゃい。」

生田君が出て行くと、奈緒子のデスクに置いてある資料を抱えて、自分のデスクに戻った。