私は、咄嗟に心臓が飛び出しそうになるのを必死に抑えながら、次に聞こえてくるだろう言葉に震えて、目を閉じて唇をギュッと噛んだ。

異様な静けさ・・・、嵐の前触れか。

でも、・・・聞こえない。

恐る恐る顔を上げると、衝撃の光景が目に入った。

その場のほぼ全員の注目を集めながら、田崎君は、平然と唐揚げを頬張っていた。

周りが一斉にそして垢らさまに溜め息を吐く。

彼は、マイペースだ。言い換えれば、空気を読めない。でも、私には彼の言動は「読めない」と言うより、「敢えて、読まない」と言った方が、しっくりと来る気がしている。
殆ど、関わることもないので、何となくそう感じているだけだけど・・・。

いつもなら、田崎君のそんな行動に周りが諦めて、自分達の話題に戻っていくのだけれど、今回は違った。

彼の発言は、決して聞き流されることのない衝撃的な事件だったからだ。

社内一モテる男、「生田祐樹のキス」という大スクープ、皆が続きを聞きたくて、うずうずしている。