10時前にロビーに下りて、チェックアウトを済ませると、生田君がロビーのソファに座っていた。

「おはようございます。」

会社での噂のことを知っているのか聞いてみようとした時、眠そうな川口さんが下りて来た。
彼女の目は真っ赤で腫れぼったく浮腫んでいる。

如何にもお酒を飲みましたって感じの気怠さを纏っている。

「おはようございます。お待たせしてすみません。」

私達はタクシーに乗って、駅に向かった。
タクシーの中では、誰も何も言葉を発しない。

タクシーを降りると、改札前で川口さんから新幹線のチケットを渡された。
思った通り、生田君と川口さんが並びで、私がその後ろの席になっていた。

新幹線に乗り込むと、車両は空いていた。

「こんなに空いてるなら、僕はこっちの席に座るよ。」

生田君は私の一つ後ろの窓側に座った。

「車掌さんに怒られるよ。」

最近の新幹線は切符の検察こそないけど、車掌さんは各車両の座席のチェックはしている。

「大丈夫ですよ。何か言われたら、席の変更をしてもらいますから。」

川口さんは珍しく何も言わず、自分の席に座っている。それが却って、ぎこちなく感じてしまう。

結局、三人が縦並びで窓側に座って、新幹線は走り出した。

心地良い揺れに眠気を誘われ、私はいつの間にか眠っていた。

ふと、窓を覗くと、後ろに座っている生田君の寝顔が窓に映っていた。

この寝顔を当然のように見れる彼女を羨ましいと初めて思った。

新幹線が東京駅に滑り込み、私達の展示会は終わった。改札前でお互いの労を労うと、私達はそれぞれの帰路についた。