3度目のFirst Kiss

「僕も一緒に行きます。」

彼の顔はもう切り替わって、若干の緊張を帯びている様に見えた。

「ありがとう。よろしくね。」

沢田様の控室は斜め前。
部屋をノックして、先に生田君が入って行った。

「この度は、私共の部下が大変なご無礼をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。また、謝罪へお伺いするのが遅くなり、重ねて、申し訳ありません。」

生田君は部屋へ入るなり、沢田様の正面へと進み、深々と頭を下げた。

こんな風に謝罪をされると、大抵の人は逆な圧倒されてしまう。そんな空気を生田君は持っている。

私は生田君が頭を上げた後、どら焼きとお茶をテーブルの上に置いた。

「もし、よろしければ。」

沢田様は、どら焼きを一瞥すると、生田君の方を見た。

「君が責任者か。まだ若そうだが、こんな大規模のイベントを取り仕切れるのか。君には、まだ早いんじゃないのか。」

生田君にとっては屈辱的な言葉だろう。

「はい、私はまだまだ、未熟です。そのせいで、沢田様にご迷惑もお掛けしてしまいました。申し訳ありません。ただ、今後のモータースポーツ界のためにもこの展示会に掛ける思いは、誰にも負けるつもりはありません。だから、沢田様が今回の私共のご無礼をお許し頂いて、セッションにご参加頂けることに、深く感謝しております。」

生田君は、再び、深く頭を下げた。

沢田様は、今度は私の方を見た。

「この和菓子を選んだのは君か?私の好物と知っていたのか?」

「いえ、この和菓子を選んだのは生田です。生田は、この展示会を成功させるため、お客様にご満足をして頂くために、来賓の皆様のご経歴はもちろん、ご趣味やご興味をお持ちのものなど、常に、事前に勉強しておりますので。私は、生田の指示に従って、準備をしたまでです。」

本当は、奈緒子が調べていたものだけど・・・。
奈緒子、ごめんね。

でも、彼女なら同じことをしたはずだとも確信している。

「まるで、身辺調査だな。私の好物まで調べるとは。しかし、若い割には大したものだ。生田君といったかね。頑張れよ。それにいいアシスタントを持って、君は幸せだな。」

「ありがとうございます。私共に、沢田様のお好きなものを教えて頂いたのは、秘書の丸山様です。沢田様にも素晴らしい秘書の方がいらっしゃいますね。今後も精進致しますので、よろしくお願い致します。」

私達は、一礼をして部屋を出た。