その時に、トラブルが起こった。

受付ブースの方が明らかに騒がしくなっている。私が急いで駆け寄ると、スーツ姿の男性が顔を真っ赤にして、川口さんを怒鳴りつけていた。

川口さんは今にも泣きそうになって、謝っている。

いい歳をした男性が若い女の子を公衆の面前で怒鳴りつけるなんてみっともないと思わないのだろうか。

私は、近くのスタッフに簡潔に事情を確認してから、その男性に近付いた。

どうやら、川口さんが大企業の役員である来賓の方に、よりによってライバル会社の役員の名札を渡してしまったようだ。

運が悪かったことに、「沢田雅夫様」と「沢木雅人様」と名前が似ていたのだ。

「招待客の名前を間違えるなんて、失礼にも程があるぞ!」

「本当に申し訳ありません。」

川口さんは、受付で座っているパイプ椅子から立ち上がる事も忘れ、ただただ、頭をペコペコと下げるばかりだ。

「何だ、その態度は。謝罪の仕方も知らないのか。」

彼の隣に立っている秘書らしき男性も、彼を止めることも出来ず、オロオロしている。

そう言えば、去年のイベントでもスタッフを捕まえては、グチグチと文句を言ってたなとその男性の顔を見て思い出した。
川口さんは、タチの悪い人に捕まってしまった。