首をかしげ聡次郎さんの顔を見たとき、キッチンカウンターにカップを置いた聡次郎さんは私を抱きしめた。
「ちょっと……」
突然のことに頭が真っ白になった。
「聡次郎さん?」
名を呼んでも聡次郎さんは私を解放するつもりはなさそうだ。
「どうしたんですか?」
「このまま恋人ごっこさせて」
「え?」
恋人ごっこって……誰も見ていない今こんなことをする必要はないのに……。
私の頭に頬を擦りつける聡次郎さんに戸惑う。けれどそれは不思議と嫌じゃない。今までの私なら聡次郎さんを拒否してケンカ腰になるのに。
「梨香」
耳元で囁かれると耳から首筋にかけてゾクゾクする。
聡次郎さんが顔を離すと抱きしめられたまま至近距離で見つめ合った。
あれ……この雰囲気、何?
聡次郎さんの顔が近づいてくる。
「聡次郎さん……待って……」
そう言っても聡次郎さんは止まらない。顔を背けることができないまま聡次郎さんに唇を塞がれた。抵抗する間もなく頭の後ろを手で押さえられ逃げられなくなる。
「んー!」
肩を押しても聡次郎さんはキスをやめない。
混乱して全身から力が抜ける。倒れそうなのに聡次郎さんに抱きしめられているから離れることができない。
力が入らない手で精一杯押しのけようとすると舌が強引に私の口に侵入する。
「んっ……やっ……」
声にならない声で抵抗すると聡次郎さんの唇は離れた。



