アフタヌーンの秘薬


「龍峯が休みの日は無理だよ?」

「わかってる」

「龍峯に出勤の日でも作れない日はあるからね」

「それもわかってる」

穏やかに笑う聡次郎さんは、私が何を言ってもどう抵抗しても自分の願いを押し通す。短い付き合いの中でそういう人だと理解している。

「どうしてそこまで私に恋人役をさせたいの?」

聡次郎さんのこれはいきすぎだ。恋人関係の強要。いい加減うんざりする。

「俺も人生かかってるんだよ」

シンクに寄りかかった聡次郎さんは真っ直ぐ私を見据えた。

「好きでもない仕事をして、親の決めた好きでもない女と結婚なんてしたくない。仕事は自分で妥協して選んだ。けど結婚相手は自分で選びたい。全力で見合いなんてしない。そのためならどんなことだってする」

怖いほどの力強い目を向けて私から視線を逸らさない。

「頼むから、梨香にも協力してほしい」

聡次郎さんの声音は家族の問題以上に根深いものを感じた。お弁当を作らせるのも私と仲の良さをアピールする目的でもあるのだろう。

「わかりましたよ。ちゃんとお給料はもらうからね」

「明人に言っとくよ」

再び笑顔になった聡次郎さんは残りの梅茶サイダーを飲み干した。

「聡次郎さん、ずっとその方がいいよ?」

「何が?」

「むかつく態度じゃなくて、そうやって笑ってた方が付き合いやすい」

聡次郎さんはぽかんと口を開けたまま固まってしまった。

「聡次郎さん? 聞いてる?」