「ねえ聡次郎さん、悪くないよ? 龍清軒で作ったけどもっと濃い深蒸し煎茶でも試してみなきゃ。梅の味が強いから粉茶も……かぶせ茶も試したい!」
1人で盛り上がっている私の手からカップを取り、聡次郎さんも1口飲んだ。
「どう?」
「……微妙」
本当に微妙な顔をする聡次郎さんにがっかりした。この人にお茶を美味しいと言わせる道のりは遠い。
「でも悪くないな……」
「ほんと?」
「お茶の炭酸飲料は以前に企画としてあったんだ。開発途中で中止になったけど、これならまた試してみてもいい」
聡次郎さんはもう1口飲みながら真剣に考え込んでいるようだ。私は内心ガッツポーズだ。
「よく考えついたな」
「カフェとか以前勤めた店でもメニューの考案をやってましたから」
大衆向けのレシピを考えるのは苦手じゃない。甘いものは好きだから採用されてメニューに載るのは自信に繋がった。
「梨香さ、俺の分の弁当を作ってよ」
「え、なんで?」
何の脈絡もない突然のお願いに驚いた。
「なんでって、恋人だから?」
今までの話の流れからどうしてそういうことになるのだろう。この梅茶サイダーの商品化に協力するのならわかるのだけど。
「私、聡次郎さんの恋人じゃありませんけど」
少しだけ低い声で訂正した。
「恋人のふりはしてもらわなきゃ。食費と手間賃は給料に反映させるから」
「でも……なんでいきなりお弁当?」
「お願い」
私の目を見て珍しく真剣に頼んでくる。



