「すみません……余計なことを……」
「兄貴が大変だと思ったから」
聡次郎さんは静かに言った。
「兄貴は元々俺と同じでこの会社に興味はなかったんだ。でも創業110年のこの会社を維持しようと必死だ。俺はその助けになりたいと思ったんだ」
「そうなんだ……」
「そう思うまでに時間はかかったけどね。いざ決心して戻ったら見合い話でうんざりだよ」
聡次郎さんは心底嫌そうな顔をした。偽者の婚約者を立てるほどお見合いが嫌なのだろう。
「俺が好きになるほどのお茶を淹れてよ」
「え?」
「お茶が嫌いなんて思わなくなるくらい、俺のために最高のお茶を淹れてみろよ」
挑戦的な言葉に嫌悪するどころか不思議とやる気が出てきた。このお茶嫌いなお茶屋専務を満足させて美味しいと言わせられたら、この上ない優越感に浸れそうだ。
「絶対に言わせてみせるから」
私の野望に満ちた笑顔に聡次郎さんは何も言わないけれど、ハンバーグを噛む口元はにやけていた。
「ハンバーグ作りすぎちゃったので明日も食べてくださいね」
残ったハンバーグのお皿にラップをかけて冷蔵庫に入れた。
「ありがとう」
食器を洗っている聡次郎さんはまたしてもお礼を言ってくれた。
嫌な人だと思っていたけれど少しだけ緊張しなくなった気がした。
「聡次郎さん、このジュースって何?」
冷蔵庫の奥に入っている数本のビンに入ったジュースが気になった。



