「梨香、あとどれくらい?」
「まだ全然!」
フライパンでハンバーグを焼き始めて蓋をしたところだ。まだ数分かかるのに聡次郎さんも数分おきに話しかけてくる。
「気になるなら手伝って!」
「しょうがないな……」
聡次郎さんは渋々といった様子で立ち上がり私の横まで来た。
「何手伝うの?」
「ブロッコリーを洗って小房に分けて」
「はいよー」
適当な返事だけれど顔は嫌そうではない。老舗企業のお坊ちゃまがブロッコリーを洗うなんて滅多に見れない光景だろう。
「そういえば以前は家政婦さんがご飯を作ってたんでしたっけ?」
月島さんのお母さんも龍峯の家政婦だったと言っていた。
「家政婦が作ってくれるときもあったけど、食事は母さんがほとんどだったな。料理は得意みたいだし」
「そう……」
私の料理は慣れ親しんだお母さんの料理にはとても及ばないのだろうと不安になる。
聡次郎さんに好かれたいわけじゃないけど、まずいご飯を作るのは申し訳ない。自分で自分の分を作るのは問題ないけれど、一流のものを食べていそうな聡次郎さんを満足させるものは作れる気がしない。
ローテーブルにハンバーグのお皿と野菜を切ったり茹でたりしただけの簡単なサラダを載せ、インスタントのお味噌汁とご飯茶碗を置いた。



