アフタヌーンの秘薬


「実は今聡次郎さんの部屋でご飯作ってて、でも聡次郎さんの部屋には調理器具が全然なくて……申し訳ないのですがお借りしたいんですが……」

情けないほど暗い声で事情を話す私に麻衣さんは微笑んだ。

「聡次郎さん料理しないからね。何が必要かしら?」

「フライパンとフライ返しを貸していただければなんとかなります」

最低限それだけあればいい。ハンバーグは作れるだろう。

「ちょっと待っててね。中に入って」

麻衣さんに促され玄関に入って待たせてもらうことにした。
部屋の奥に入っていった麻衣さんに視線を向けると、ドアの向こうに少しだけ見えるリビングは綺麗に片付いている。
聡次郎さんの必要最低限のものだけあるシンプルな部屋とは違って、物はあるけれど整理整頓されている。

まだ子供がいない社長夫婦は跡継ぎ問題で悩んでいるのだとパートさんたちから聞いていた。この老舗企業も例に漏れず大変なのだろう。

子供がいないから麻衣さんは会社を手伝っているのかもしれない。店舗に関する事務処理全般を担い、本店店長である花山さんが休みの日は本店のサポートもしてくれている。

「お待たせしました」

「ありがとうございます」

麻衣さんはフライパンとフライ返しを持って戻ってきた。

「聡次郎さんが女の子を部屋に招くなんて初めてじゃないかな」

「そうなんですか?」

「今まで恋人はいたんだろうけど、家族に紹介したことはなかったみたい。慶一郎さんは梨香さんを紹介されたとき喜んでたの」