アフタヌーンの秘薬


口が開いたままになってしまう。聡次郎さんのあの広い部屋の綺麗なキッチンでハンバーグを作る自分を想像できない。

「梨香、契約」

いたずらっぽく笑って囁く聡次郎さんに腹が立つ。けれど私は抵抗することなんてできないのだ。





買い物を終えて車は龍峯のビルの駐車場に入った。
スーパーの袋を2人で手分けして持ち、裏口からビルの中に入った。

私たちは休みでも会社としては営業している平日。社員に見つからないかとビクビクしている私に対して聡次郎さんはなぜか上機嫌だ。

エレベーターに乗り込んで止まることなく16階に着いた時にはほっとして思わず溜め息をついた。

「梨香は気にしすぎ。バレたっていいじゃん」

私の溜め息を聞いて横に立つ聡次郎さんは呆れている。

あなたは構わないのかもしれないけれど、私は色々と働きにくいんです!

心の中で文句を言った。それにいつか別れる契約なのに社員にバレてしまったら恥ずかしい思いをするのは聡次郎さんなのに。

部屋に入り私の分の買い物もとりあえず冷蔵庫に入れておいてもらう。
私の家のものよりも大きい冷蔵庫には食材がほとんど入っていない。缶ビールと水のペットボトルとジュースらしきビンが入っている。冷蔵庫には何もないと聞いてはいたけれど、ここまですっきりしているとは思わなかった。

「こんな大きい冷蔵庫なのにもったいない……」