アフタヌーンの秘薬


しばらくして運ばれてきたお蕎麦は今まで食べたことのないくらい美味しくて、罪の意識を忘れて上機嫌になってしまうほどだった。
海老の天ぷらを頬張る私に聡次郎さんは「な、言ったとおりだろ?」と笑顔を向けた。

帰りにお金を払おうとする聡次郎さんに叔母さんは一切受け取ろうとしなかった。「またきてね」と笑顔で見送られては申し訳なさでいっぱいになった。

「ご馳走になってしまって申し訳ないです……」

「いいんじゃん? 俺だって今日は払おうとしたけどいつもはタダで食ってるし」

呆れたけれど親戚なのだからそういうものだろう。あんな美味しいお蕎麦を食べられるなんて羨ましい。一般の人はなかなか入らない高級なお店だろうし。

「もう一軒行くぞ」

「え!」

さすがにもう帰るだろうと思っていたので驚いた。

「梨香は甘いもの好き?」

聡次郎さんは私の驚いた声は聞かなかったことにしたようだ。

「好き……」

「ならよかった」

今度はどこに行くのかを決めているようで、車が走り出し住宅地を抜けると助手席側から海が見えてきた。

「わあ」

思わず身を乗り出した。窓を少し開けると潮の香りが強くなる。冷たい空気が車内に満ちて寒くなってしまった。

「すみません」

窓を閉めようとしたけれど、聡次郎さんは「開けてていいよ」と海にはしゃぐ私を許してくれるようだ。
海が見える場所は少ないようで、数分走るとすぐに見えなくなってしまった。