「どうかな。今でも俺と兄貴にうるさく口出してるよ」
和室に入ると六畳ほどの部屋の中央に黒い木製テーブルが置かれ、その上に急須と茶碗と茶筒が置かれていた。
「聡ちゃんは天ぷら蕎麦でいいかしら?」
「うん」
「梨香さんは?」
「えっと……」
メニューを見て驚いた。私の金銭感覚では想像できなかった額の品が書かれている。
とりあえず1番安い品をとメニューを上下左右に見回していると、「こいつも天ぷら蕎麦で」と聡次郎さんが勝手に注文してしまった。
「え、あの……」
「うまいから梨香もそれにしとけって」
「わかった……」
聡次郎さんに従うと叔母さんは私たちの様子に微笑んだ。
「ちょっと待っててね」
そう言って襖を閉めていった。
「梨香、今混乱してるだろ」
聡次郎さんはテーブルに肘をついて私を見て笑った。
「こんな高級なお蕎麦屋さん入ったことがないから……」
デザートのアイスでさえ数字が大きい。和室に飾られた活け花も掛け軸も、装飾が施された部屋は私には場違いだ。
「ここは父親の妹夫婦のお店なんだ。このお茶も龍峯の」
聡次郎さんが指した茶筒の中には龍峯で扱っているお茶の葉が入っているのだろう。
「俺も今では滅多に来ないけど、蕎麦はマジでうまいよ」
「へえ……楽しみ……」
そう言いながらも私の顔は引きつっている。
聡次郎さんの家族に恋人だと嘘をつき、今も叔母さんに嘘をついた。甥っ子の恋人として来た私を歓迎してくれたであろう叔母さんに嘘をつくことは罪悪感が芽生える。



