「いいよ。昔から俺と明人は比べられて、いつも明人の方が人に好かれるんだ」
「………」
聡次郎さんの何かを諦めたような声音に思わず顔を見た。相変わらず怒っているわけでも悲しんでいるわけでもない、感情の読み取れない顔だ。
「子供の頃から明人は優秀で勉強もスポーツもできて、俺の周りはみんな明人に惹かれてた。俺は何をやってもあいつには勝てない」
「聡次郎さん?」
思わず名前を呼んだ。突然自虐的になる聡次郎さんに驚いた。
「兄貴もそうだ。優しくて気遣いができる。努力家だから父さんも小さい頃から兄貴を後継者として育ててきたんだ」
聡次郎さんの心に触れた気がした。けれどそれは聡次郎さんにとっても私にとってもいい話題だとは思えない。
赤信号で停車し、聡次郎さんの話も止まると私は口を開いた。
「はっきり言って、私は聡次郎さんを嫌いじゃないですが苦手です」
思い切って本音を口にした。
「何を考えてるかわからないし、強引だし、きつい言葉に傷つきます。今日だって突然家に来られても困りますから」
聡次郎さんが驚いて私を見た。
「連絡先を知っているんだから電話なりLINEなりしてから来てください」
「……ごめん」
初めて聡次郎さんから謝罪の言葉を聞いた。でも私以上に目を見開いた聡次郎さんは変なものを見るように私を見つめる。



