1時間と聞いて諦めてくれるかと思ったけれど、聡次郎さんは本当に待つ気でいるようだ。
実際には1時間なんてかからない。でも洗濯物を干して着替えて化粧をしなければいけないのだ。
「仕方ないですね……下で待っててください」
「わかった」
そう言うと聡次郎さんはドアから離れアパートの階段を下りていった。ドアを閉めると私は溜め息をついた。
突然来てデートなんて言われたら困ってしまう。何も心の準備ができていない。聡次郎さんと長時間行動を共にするなんて神経が磨り減りそうだ。というかこれはパワハラではないのだろうか?
洗濯カゴを持ってベランダに出た。とにかく洗濯物を干してしまわなければ。
龍峯の制服のシャツをハンガーにかけて物干し竿に吊るすと、アパートの下の車が目に入った。
黒のコンパクトカーは聡次郎さんの車だ。老舗企業の専務にしては庶民的な車だ。
車の横のガードレールに腰掛けた聡次郎さんはスマートフォンを弄っている。その姿もどこにでもいそうな普通の男性だ。
休日に会うような恋人はいないんだろうか。いたら私なんかに偽婚約者なんて頼まないよね。元は平社員だけれど有名な会社の中で育ってルックスも悪くないのに、というか私の好みじゃないだけで結構なイケメンな方だと思う。なのに恋人がいないのが不思議。まあ問題はあの性格かな。月島さんとは大違い。



