お茶を淹れる。お茶を飲む。たったこれだけの事が龍峯に来るとすごく難しいことのように感じた。
◇◇◇◇◇
今日は久しぶりの何も予定がない休みだ。
恋人もいないし、生活のため仕事漬けだったこの数年間ほとんどの休日は家で過ごしている。ここ最近は連続勤務で家にいる時間が少なかったから洗濯物も干せないでいた。
今日は洗濯と掃除をして、撮り溜めていたドラマを見てのんびりしよう。
洗濯機がピーっと鳴り停止する。洗い終わった衣類を洗濯カゴに入れたとき、玄関のチャイムが鳴った。宅急便だろうかとドアスコープを覗くと、聡次郎さんがドアの外に立っていることに驚いた。
いつかと同じような状況に呆れてドアの向こうに「何の用ですか?」と声をかけた。
「お前さ、朝の挨拶よりも先に用件聞くのかよ」
ドアの向こうから聡次郎さんの不機嫌な声が聞こえる。不機嫌なのは私も同じなのだ。
「おはようございます……なんで来たんですか?」
まるで迷惑だと言っているような口調を誤魔化しきれない。でも実際突然来られては迷惑なのだ。
「用がなきゃ来ちゃいけないのかよ? 一応婚約者なんだけど」
確かに婚約者だ。けれどそれは本当の関係ではない。休日まで聡次郎さんと会う必要はない。
「今日はお休みだから……」
だから帰ってほしい。自分でも驚くほど低い声が出た。契約を交わしたからといって聡次郎さんに振り回されるのは御免だ。



