「手間をかければこのお茶じゃなくてスーパーで売ってる安いお茶でも、ある程度美味しく飲めるのよ」

これならカフェの仕事の休憩にコーヒーを飲んでばかりだった私でも食後にお茶を飲みたいと思う。急須でお茶を淹れるなんて古臭いイメージだけれど考えが変わった。

「今日はお店のお茶をいろいろと試飲してみましょう。試飲用のお茶が棚に入っているから三宅さんも淹れる練習をしてみてね」

「はい!」

龍峯で取り扱っている緑茶やほうじ茶などを急須で淹れ試飲をし、お茶の入った袋や箱を包装紙で包む練習をした。紙の向きや最後にテープで止める位置まで細かく指定があり、今後はレジの操作や商品、お茶の種類も覚えなくてはいけないことが山ほどあり、その現実を知っただけで相当疲れてしまった。







「来月以降のシフトを作るので希望の時間を記入してください」

「わかりました……」

事務所で花山さんにコピー用紙に曜日と時間を振り分けられたシフト表を渡された。
来月の予定は未定だ。カフェのシフトもまだ出ていないし、来月ここに出勤している自分を想像できない。生活のためとはいえ好きでもないことを覚えるのは億劫だ。

「失礼します」

ノックする音がして廊下に通じるドアから入ってきたのは月島さんだった。

「お疲れ様ですー」

月島さんが入ってきた途端に花山さんは満面の笑みを浮かべ、先ほどとは明らかに違う高い声を出した。

「三宅さん、もう退勤ですよね。このあと少しお時間いいですか?」

「はい……」

花山さんが驚いた顔で私を見ているのを横目で感じた。