湯飲みに注がれたお茶は濁った濃い緑色。けれどそれは聡次郎さんが淹れてくれたものほど濃くはなかった。
「いただきます」
湯飲みを手に持ち一口含んだ。そして感動して目を見開いた。想像していたよりもずっと美味しかったのだ。火傷することのない飲み頃の温度のお茶は香ばしい香りが鼻に抜け、濃い色の割には苦味や渋みは強くなく、むしろ口の中がさっぱりする。意外なことに、ほのかに甘みを感じコクがある。このお茶が先日聡次郎さんに飲ませてもらったお茶と同じものだとはとても思えない。
「おいしい……」
思わず言葉が出た。
「そうでしょ。この龍清軒は味の調節もしやすいし、色んな場面で使える良くできたお茶だと思うわ」
ごくごくと湯飲みのお茶を飲み干した。聡次郎さんのお茶ともペットボトルのお茶とも全然違う。今まで急須で淹れたお茶をこんなに美味しいと感じたことはなかった。
「二煎目も飲んで比べてみようか」
川田さんは今度は釜のお湯を急須に直接入れた。
「二煎目は一煎目よりも温度の高いお湯で、蒸らす時間も短めに。濃く出すぎちゃうから30秒でいいかな」
どうやら最初に淹れることを一煎目、それ以降を二煎目三煎目と言っていくようだ。
実家にいた頃も、母が同じお茶の葉に何度もお湯を注いでは三煎目まで飲んでいたのを思い出す。
「はいどうぞ」
川田さんが注いだ二煎目のお茶を口に含んだ。先ほどよりも少し熱いお茶はほんの少し苦味と渋みが増したけれど、変わらず甘さも感じるさっぱりとした味だ。
「おいしい……こんな美味しいお茶、飲んだことがないです」



