「お湯を最初に茶碗や湯飲みに入れるのは器を温めるためと、お湯の量を量るため。お茶の葉がお湯を吸うから少し多めにお湯を入れます」
川田さんは釜の蓋を開けた。釜の中にはお湯が入っている。台に嵌められた釜は電熱線で温められ、中のお湯は常に高温になっているようだ。
「湯飲みのお湯を急須に入れます。そうして40秒ほど待ちます。龍清軒はお湯の温度も70度から80度が適温かな。釜のお湯は高温だから1度湯飲みに移すと大体10度下がるからちょうどいいの」
ただお湯を注げばいいだけだと思っていたのに温度も秒数も細かく複雑で、混乱しないようにメモ帳に慌てた汚い字で単語と数字を書きなぐる。
「龍清軒の袋の裏には1分ほど蒸らすって書いてあるけど、実際は40秒から50秒がちょうどいい気がするわ。1分じゃ濃く出すぎちゃう」
「はい……」
「40秒たったね」
川田さんは壁にかけられた時計の秒針を見て急須を手に取った。
「湯飲みにそれぞれ少しずつ数回に分けて注ぎます。こうすると全ての湯飲みの味と量が均一になるの」
2つの湯飲みに少しずつお茶を注ぎ、最後の1滴まで注ぎきるように急須を傾けた。
「よく急須を揺すって注ぐ人がいるけれど、あれは濃く出すぎちゃったりするから素人は揺すらないで数十秒じっと蒸らした方が美味しく淹れられます」
説明を理解する前に書くことに必死になってしまう。茶碗に最初にお湯を入れて温めることや、少しずつ数回に分けてお茶を注ぐことは小学校の家庭科の授業で習った記憶があった。けれど温度や時間はここまで細かかった覚えはない。
「さあ、龍清軒飲んでみて」



