アフタヌーンの秘薬


川田さんが商品棚から淡い緑色の袋を取りレジを打ち始めた。手際よく袋に詰めるとお客様に手渡し、お客様は笑顔でお店から出て行った。

「ありがとうございました」

川田さんが45度お辞儀をしたのに倣い慌てて私もお辞儀をしてお客様を見送った。
一連のやり取りに首を傾げるばかりだ。今のお客様が龍清軒を1番美味しいと言ったのも理解できないけれど、『いっせんめ』だの『にせんめ』だのの単語もわからなかった。

「今の方は常連さんで、お茶にこだわりのある方です。うちの商品を会社で飲む用に買いにきてくださいます」

「そうなんですね」

今時急須で淹れるお茶を買いに来る人なんているのだろうかと思ったのだけれど、歴史のある大企業というだけあってお客様はいるのだ。ここはオフィス街だから会社で飲むためにお茶を買いに来る人が多いのだろう。

「ではお茶の淹れ方を教えます。まずはうちのメインである龍清軒を飲んでみますか」

「はい……」

1度聡次郎さんに淹れてもらって飲んでいる。またあの渋いお茶を飲むのは抵抗があるけれど、そんなことは言えない。

「まずは急須に人数分のお茶の葉を入れます」

川田さんは台の上に置かれた黒い茶筒の蓋を開け、中に入っていたプラスチックの茶さじでお茶の葉を掬い急須に入れた。

「お茶の葉は1人2グラムから3グラムです。今は私と三宅さん2人が飲むから5グラムから6グラム。この茶さじ1杯ってとこね」

私は川田さんの説明を必死にメモに取る。

「茶碗にお湯を入れます。今は湯飲みでやりますね」

台の下の引き出しを引いて湯飲みを2つ出した。