アフタヌーンの秘薬


お客様が店内の商品を見ている間に川田さんは釜の中のお湯を茶杓で掬い茶碗に入れ、急須にお茶の葉を入れ茶碗のお湯を急須に入れた。数十秒たって急須のお茶を湯飲みに注ぐとトレーに茶托を載せ、その上に茶碗を載せて中央のテーブルに運んだ。

「よろしければお召し上がりください」

そうお客様に声をかけ、女性は「ありがとうございます」とイスに座った。
台の横に立つ私の近くに戻ってきた川田さんは「今のようにお客様にお茶をご用意してください」と笑顔で教えてくれた。
これは簡単そうだ、と安心した。飲み物を提供するのはカフェの仕事と変わりない。

「今お客様にお出ししたのは龍清軒という龍峯のメインのお茶です」

「りゅうせいけん……」

それは以前聡次郎さんが淹れてくれたお茶のことだ。あの時飲んだお茶は普段ペットボトルで飲むお茶とは比較にならないほど渋くて、土が混じっているのではと疑いたくなるほど濃い味と濃い緑色だった。正直あれをお客様にお出ししてもいいものだろうかと心配になるのだけれど、座ったお客様は湯飲みのお茶を綺麗に飲み干した。

「ごちそうさまでした」

そう言って茶托と茶碗を川田さんのところに持ってきてくれた。

「恐れ入ります」

茶碗を川田さんに手渡したお客様は「これは龍清軒ですか?」と聞いた。

「そうです。やはりお気づきになりましたね」

「これが1番美味しいですから。先日買ったものも一煎目はまあまあでしたが、二煎目三煎目も味わうなら龍清軒ですね。なので今日も龍清軒にします」

「いつもありがとうございます」