お互いに軽く頭を下げ合った。川田さんの年齢は私の母親の少し下かもしれない。ふっくらした体つきと優しい笑顔には親しみやすそうな印象を持った。
「まずはお店での接客を教えますね」
「お願いします」
「お客様が来店されたらお顔を見て45度お辞儀をして、いらっしゃいませと声をかけます。そうしてお茶を1杯お出しします」
川田さんはレジの後ろに置かれた台の前に立った。腰の高さほどの台には両腕で抱えないと持てないだろう大きさの釜が嵌め込まれ、布巾や急須や茶道に使われるだろう道具が置かれていた。
ここに置かれているということはこれら茶道の道具の使い方も覚えるということだろうか。お茶なんて点てたことがない。一気に不安が湧いた。
「お茶の淹れ方はあとで教えますね。お客様が商品を決められたら、ご自宅用なのか包んだ方がいいのかをお聞きします」
そう言って川田さんはレジの横に置かれた棚を指差した。龍峯茶園のロゴがプリントされた包装紙が束になって置かれている。
「あそこに入った包装紙で商品を包みます」
「包みのやり方も……」
「そう、練習してもらいます」
気が遠くなりそうだ。ラッピングなんてやったことがない。このお店にある様々な形をした商品を包装紙で包むなんてできる気がしない。
「いらっしゃいませ」
川田さんの声に入り口に目を向けると店内にお客様が入ってきた。慌てて川田さんに倣って「いらっしゃいませ」と言うと45度を意識してお辞儀をした。
来店したお客様はライトグレーのスーツを着た30代くらいの若い女性だった。とても日本茶を買いに来るようには見えないイメージで意外だった。



