アフタヌーンの秘薬


「お待たせしました……」

更衣室を出ると花山さんが私の全身をチェックした。

「髪の毛はそれでいいです。毎回必ず結んでください。今後染めることがあれば明るい色は避けてください。アクセサリーは厳禁です」

「はい……」

ここは飲食業でもないのに髪型にも決まりがあって大変だ。

花山さんに一通り社内を案内され、倉庫に置かれた商品の説明や営業部のあるフロアで何名かの社員を紹介されたけれど、早口で淡々と話す花山さんの言葉は頭に入らない。事前に月島さんに案内されていなければ覚えるのも一苦労だっただろう。

1階に戻ると「あとはパートさんに任せますのでお店に出てください」と言われて焦った。

「あの、花山さんはお店に出られないんですか?」

「基本接客はパートさんにお任せしています。商品の詳しい説明や本店の中のことを私は教えません」

花山さんは社員なのに本店のことをパートに任せるなんて、名の通ったお茶屋の社員がそれでいいのだろうか。

「わかりました」

事務所から店舗へ行くドアをノックしてから開けた。
初めて入った本店の中は左右に商品の並んだケースが置かれ、入り口と平行するようにレジと急須や湯飲みが入ったガラスケースがあった。中央には黒い木製のテーブルとイスが置かれている。レジの前には1人の女性が立っていた。

「川田さん、あとはお願いします」

花山さんに川田と呼ばれた女性が「わかりました」と返事をすると、花山さんは奥の事務所に戻ってしまった。

「川田です。よろしくお願いします」

「三宅です。よろしくお願いします」