アフタヌーンの秘薬


「本店店長の花山と申します。よろしくお願い致します」

私より10歳ほど年上だろう花山さんは見るからに厳しそうな人だった。目に迫力があるのはアイラインが太く濃く引かれているからだけではない。

「本店を任されていますが、仕事を教えるのは基本的には他のパートさんです」

そう言った口調も冷ややかだ。何となく歓迎されていないのが伝わった。

「わかりました」

「先に社長室に行ってください。社長と奥様が待っています」

そう言ったのは月島さんだ。

「社長室ですか?」

「エレベーターで15階に上がって左の部屋です」

「はい」

ということはこの間入った応接室の隣の部屋だろう。その部屋かとはっきり聞かないのは私が今日初めてここに来たことになっているからだ。花山さんの前で私が社長室の場所を知っているとは言えないのだ。

事務所を出るとエレベーターのドアがちょうど開き、中から聡次郎さんが出てきた。

「お、早いじゃん」

「おはようございます」

初めて会ったときと同じくスーツを着た聡次郎さんは以前と雰囲気が違った。整髪料などつけていなそうだったのに、今日はきっちりと髪が整えられている。

「俺も今日から龍峯の社員」

「そうなんだ……」

「専務として挨拶回りだよ。面倒だけど」

「え、聡次郎さんって専務なんですか?」

龍峯の社員になるとはいっても、まさか専務になるなんて思っていなかった。

「そうだよ。社長の弟だからってだけで、古参の社員を飛び越えてさ。お茶のこと、会社のことなんてちっともわからないのに」