「適当になんて……できません……」
働くからには適当なことはできない。龍峯に相応しくないと思われた方がいいのだろうけど、お給料をもらうのにそれでは申し訳ない。
聡次郎さんの計画性の無さに呆れてしまう。滅茶苦茶な状況に付き合わされていては私の生活が乱される。
「やるの? やらないの?」
聡次郎さんに問われて私はキッと睨みつけた。
「やります!」
お金のためだと自分に言い聞かせた。今は来月の家賃が払えるかも危うい状況なのだ。
私に睨まれても聡次郎さんは面白がるように笑った。
「明人、契約書作り直して」
「わかった」
聡次郎さんは機嫌良くスマートフォンで出前のメニューを見て電話をかけ始め、月島さんは手帳に何かを書き加えている。私だけ不自然な状況に馴染めないまま、広い部屋に取り残されたような感覚になった。
聡次郎さんの奢りでお寿司をご馳走になり、再び聡次郎さんの車で今度は自宅のアパートの前まで送ってもらった。
「じゃあよろしくね、俺の婚約者さん」
2度目に言われたセリフはまたしても面白がっているような口調だった。
車が走り去り、自分の部屋に入って靴を脱いで座り込んだ。
まだ2時過ぎだというのに疲労がピークだ。
新しい生活を始めるにはエネルギーを大量に消費する。先の見えない契約には後悔しかなかった。



