「はい……」
それは嫌われるような女性ではないと喜んでいいのか、役不足ではない程度には身分の低いということなのか複雑だった。
「聡次郎はとにかくこの龍峯茶園と奥様に反抗したいのです。人生も結婚相手も決められたくはないからこんな契約をお願いしたのです」
「そうなんですか……」
自宅でお茶を淹れてもらったとき、聡次郎さんはお茶が好きではないのだと思った。きっと小さい頃からこの会社にいい思い出がないのかもしれない。
「1階は龍峯茶園の本店と店舗用の小さい事務所があります」
エレベーターを降りて、廊下の先の正面玄関から一旦外に出ると本店の正面に回れるようだ。
「三宅さんは龍峯の店舗を見たことがありますか?」
「えっと、百貨店とかに入ってますよね」
「そうです。ここがその本店です」
正面には『龍峯茶園』と書かれた暖簾がかけられ、左には看板が設置され、右には『新茶予約受付中』とのぼりが立てられている。
「関東の百貨店を中心にいくつか店舗があって、ペットボトルのお茶はコンビニにも置いてもらっています。葬儀会社に頼まれたときは、うちからお茶を出したりもしています。古明橋の企業にも昔からお茶をお届けもしていますよ」
「そうなんですね」
古明橋に本社、本店を構える老舗お茶屋、龍峯茶園は取引先もきっと大手ばかりなのだろう。その会社の人たちとこれから関わっていかなければいけないなんて精神的に疲れそうだ。
「では上の階をご案内します」
再びビルの中に入り、エレベーターの横の階段を上がった。



