すると横に座った聡次郎さんが私の手を握った。まるで慰めるように優しく包まれて、その時初めて自分の手が震えていることに気がついた。
「母さんが決めることじゃない」
聡次郎さんは静かに言った。
「結婚相手は自分で決める。学歴や過去の仕事なんてどうでもいい。俺は梨香と結婚すると決めたんだ」
これが契約でなければ私を庇う聡次郎さんに惚れ直したのかもしれない。何を考えているかわからない人だけれど、自分の意思は曲げない人なのはわかった。
「認めません!」
「跡継ぎがいないからって俺に責任を押し付けるのはやめろ!」
「聡次郎」
言い合いに割って入ったのは後ろに控えた月島さんだった。
「それは言い過ぎだ」
月島さんの言葉が応接室に静寂をもたらした。
「ごめん兄貴……兄貴たちを責めてるわけじゃないんだ」
「わかってるよ」
慶一郎さんは困ったように微笑んだ。
私にはどうして龍峯の皆さんが私との結婚をここまで反対して気まずくなるのかが理解できない。老舗の大きな会社で親族経営は何かと問題があるのかもしれない。
「母さん、聡次郎の選んだ人なんだから。応援しよう」
慶一郎さんに諭されてお母さんは考え込んだ。
「では喫茶店は辞めて会社を手伝うということでいいのかしら?」
「え?」
「龍峯の人間になるのだから喫茶店で働くことは辞めてお茶の勉強をしてくださるのよね?」
「あの……それは……」
困って聡次郎さんの顔を見た。聡次郎さんもそんなことを言われるとは思ってもいなかったようで困惑していた。けれども手は繋がれたままだ。
「梨香をこの会社に巻き込むことはしない。母さんが梨香を教養のない人だというのなら、龍峯には必要ないだろう」



