付き合っていると聡次郎さんの口から言われて胸がざわついた。本当に付き合ってなどいないけれど、聡次郎さんは今演技でも私との関係を守ろうとしてくれているのだ。
「お付き合いするのは構いません。でも結婚は許しません」
「母さん、それはあんまりです。聡次郎が選んだ女性ですよ」
慶一郎さんもついに話に加わった。けれどお母さんの表情は冷たいままだ。
「梨香さんは大学はどちらを卒業されているのかしら?」
「え?」
「学歴は関係ないだろ」
聡次郎さんの声は苛立ちが含まれている。
「お茶の知識も無い、教養もないでは困るのです!」
「梨香に失礼なことを言うな!」
お母さんも聡次郎さんも顔が真っ赤だ。こんな親子喧嘩に巻き込まれるとは思っていなかった。
「大学は……出ていません……」
言い合いを止めるように、小さい声で、けれどはっきりと言葉に出した。
「高校を卒業したあとにアルバイトをしていた会社に契約社員として就職しました。でも経営が悪化して、そのまま契約が切られてしまってからは複数の仕事を掛け持ちして、今はカフェでバイトをするフリーターです……」
説明の最後には消え入りそうな声だった。
人に言えないような生活ではない。恥ずかしいことなど何もない。けれど聡次郎さんやお母さんが求める知識や教養のある人間ではないことが申し訳なかった。
「残念ですが私は認められません」
お母さんの言葉にギュッと目を瞑った。わかっていても自分を認めてもらえないのはどんな状況であれショックだ。悲しくて怒りだって湧く。



